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長崎家庭裁判所 昭和62年(少)30号 決定

少年 M・M(昭47.2.5生)

主文

少年を教護院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

1  昭和61年8月10日午前11時ころ、長崎県西彼杵郡○○町大字○○××番地×、A方において、同人所有にかかる現金3万4000円及びラジオカセツト1台、財布1個(時価合計2万1000円相当)を窃取した

2  同年10月16日午後10時ころ、同町大字○○××番地○○美容室ことB子方において、同人所有にかかる現金6万円を窃取した

3  昭和62年1月4日午後3時ころ、同町大字○○××番地○○町立○○小学校職員室において、同校々長C管理にかかる現金1000円を窃取した

4  同年同月11日午後3時30分ころ、同所同小学校職員室において、同校々長C他1名の所有又は管理にかかる現金350円、煙草3個(時価720円相当)を窃取した

5  同日同時刻ころ、上記金品窃取の犯跡を隠ぺいするため及び同居する実母の内夫に対する憎悪の念から同人に対し精神的苦痛を加える目的で非行を犯そうと企て、上記C管理にかかる木造モルタル2階建の○○小学校を焼燬することを決意し、同校職員室前廊下に置いてあつたポリ容器入りの約10リツトルの灯油を同職員室前から横廊下床板に長さ13メートルにわたつて散布したうえ、同職員室から持ち出した西洋紙にライターで点火して火を放ち、上記散布した灯油に燃え移らせて、現に人の現住しない同小学校を焼燬しようとしたが、灯油の火が自然鎮火したため同校廊下床板を幅1メートル前後、長さ4、5メートル燻焼させたにとどまり、その目的を遂げなかつたものである。

(法令の適用)

非行事実1ないし4につき刑法235条

非行事実5につき刑法109条1項、同法112条

(処遇の理由)

1  少年は、昭和61年8月10日及び同年10月16日にそれぞれ窃盗非行を惹起した(本件非行1、2)ことで、同年12月29日、昭和62年1月6日にそれぞれ警察において取調べを受けたが、その間の同年1月4日には○○小学校から現金を窃取し(本件非行3)、また同月6日の取調べ終了後自宅において実母の内夫から殴打、叱責を受けたことから翌7日に家出をし、同月11日に上記小学校に侵入、現金窃取後放火行為に及び(本件非行4、5)翌12日に逮捕された。上記放火行為の原因について、少年は、犯跡隠ぺい及び義父に対する憎悪の念によるものと供述しており、確かにそれらが動機となつているものと認められるけれど、放火行為の準備は、学校侵入前に何もなく、また少年も犯意発生時期について、窃盗行為後灯油が目についた時である旨供述していることからすると、放火行為自体に計画性はなく、思慮浅く、窃盗行為に伴う二次的行動として惹起された側面も有しているといえる。

2  少年の家庭環境及び生育歴についてみるに、少年の実父は、少年の出生時ころより精神病院への入退院を繰り返し、少年が11歳時に病死し、また実母についても、少年の監護に手を回せない状態が続き、また実父死亡後は実父生前より親交のあつた内夫と生活を共に始めるに及び、本件非行当時も内夫の言いなりとなつており、少年に対し十分な監護能力があるとは認め難い。少年自身についてみると、3歳時検診に言語、身体の発達遅滞との指摘を受け、以後年1回児童相談所の指導を受けながら成長してきたが、現在においても小柄な体格で、学力も小学校4年生程度にとどまつている。そして少年は実母の内夫に対しては、実父を殺したのは同人であると思い込むなど強い憎悪の念を抱き、自宅には帰りたくない旨述べている。実母の内夫の少年に対する虐待行為の存否は必ずしも明らかではないけれど、同人が学校を休ませ少年を山林労務の仕事に連れて行くことがたびたびであつたこと、食事の量を制限していたこと、少年を電気のない離れに住まわせていたことなどが認められ、少年の生育環境が非常に劣悪なものであつたと認められ、このことは本件非行に強く影響しているところであると認められる。

3  少年の本件非行は、小学校への放火という重大な行為を含むものでありその非行性は深化しつつあると判断せざるえないことからすれば、少年院への収容も考えられるところではあるけれど、幸い放火は未遂にとどまつたこと、また少年の上記資質及び家庭環境からして、まず同人に対し適切な保護環境のもとでの一般常識及び社会性についての健全な育成がはかられるべきものと思料されることからすれば、その指導は教護院においてなされるべきものと考える(少年は中学3年生であり義務教育終了までわずかの期間しかないが、児童相談所において教護院における受け入れが可能である旨の意思が表明されている。)。

4  よつて、少年を教護院に送致することとし、少年法24条1項2号を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 古久保正人)

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